
「二人の男」
「被害者」
目の前から全身黒尽くめの男が歩いてきたんです。
この暑いのに黒いコートを襟を立てて着て、黒い帽子を目深に被っていました。
妙にキョロキョロしていて挙動不審で、直感で今ニュースで話題の連続殺人鬼だと分かりました。
細い路地裏でばかり起こる連続通り魔です、あなたも当然知ってるでしょう?
だから警戒したんです、その男を注意深く観察しながら私は道路を渡り反対側の
歩道に移動したんです。
そしたらそいつも移動しました。
私はリュックからペーパーナイフを取り出しました。
たまたま持っていたんですよ。
それを隠し持ち、いつ襲ってきても反撃できるようにしてました。
すれ違った瞬間は何もしてきませんでした。でもしばらくしてその男は
私を追いかけてきたんです。
当然逃げましたよ。
それであのアパートの前で追い付かれて肩を捕まれたのでペーパーナイフで刺したんです。
ええ、そうです。首を。はい。
それが全てです、でもこれは明らかに正当防衛でしょう?
やらなければこっちがやられていた。
それに私が襲われたのはこれが初めてじゃない。
今まで何度も同じように襲われて。
だから護身用にサバイバルナイフを、え?こっちは命を狙われているんだ!
あんた達は何もしてくれなかっただろう?警察なんか信じられない!
自分の命は自分で守る、もう奴らの殺し屋を五人も殺してやった!
あいつ等もこれで分かるだろう!俺を殺すことなど出来ないと!
「加害者」
あぁ〜
あれ絶対いかさまだよなぁ。
何で三回連続でフォーカード出るんだよ。
しかも四人揃って。そんな腕あるならラスベガス行けってんだ畜生。
あぁ、暑いよ〜、なんで真夏にこんな格好しなきゃいけないんだよ…
まあ罰ゲームだからだけどな。黒は熱を吸収すんだよなぁ…
さっさとコンビニ行ってアイス買ってこよ…うわぁ、前から人来ちゃったよ。
恥ずかしいな、くそーこっち見るなよ。うわー恥ずかしいよ、おい。
なるべく見ないようにして、道路の反対側に移動しよう…っておいこら。
お前まで移動してどうすんだよ馬鹿。
まずいよなぁ、警察とか呼ばれたらどうすんだよ。
やばいやばい、目立たないように…
だめだ暑さで頭が全然回らないよ…
もう目の前まで来てるし、こっち見るなよ。
あっ、財布落としやがった。
くそっ無視するか…いや、ここで親切さをアピールして罰ゲームと言うことを説明
…うわっ走りやがった。
待てよ、おい、財布を落としたぞ!待てって速いなこいつ。
だが元陸上部のオレを舐めるなよ!!
おら、追いついたぞ。
あんた財布を…?
あえ?何だ、首になんか当たってるみた…え?
血か?オレの血か?うわまじか、足に力が入らないな。何だ。
痛いな、くそ、痛いよ。
おっ、何かアパートからおばちゃんが出てきたぞ。
おいおい叫ぶな叫ぶな、まず救急車を呼びなさい。
叫ばないで救急車。
救急車を呼んでこのオレの体を…あれ?…オレのか…ら………だを…