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「懐古」


ある絵描きが昔自分が住んでいた故郷を懐かしみ絵に描いてみることにした。
彼がまだ少年だった頃、よく絵を描きに行ったあの高台からの風景を思い浮かべる。
山には杉の苗がたくさん植えられていて、川の水は工場の汚水で濁っていたはずだ。
彼はさらに記憶を辿って絵を書き足していく。
山のこの辺りには広いあぜ道が町まで通っていて自分の育った家は大体この辺にある…
しばらく時間をかけて彼は記憶を頼りに一枚の風景画を描き上げた。
この町を知らない人がこの絵を見てもよくある風景画だと思うだけなんだろうな、と思ったが 絵に詰まった思い出から彼は満足感で満たされていた。

それから数十年が経った。
歳をとった彼は再び少年のころ過ごした故郷を絵に描いてみようと記憶を辿る。
しかしずいぶん昔住んでいた故郷だったので、その際いつだったか若いころに描いた故郷の 風景画を参考にしようと探してみる。
ようやく出てきた自分で描いた絵を久しぶりに眺めてみると、彼はあれこれ物足りなさを感じ出した。
杉はこんなに小さくなかったのではないか…
川の水はもう少し澄んだ色をしてはいなかったか…
町ももう少し明るい色を使った方が存在を目立たせられるだろう。

彼は今思ったことを新しく描く故郷にそのまま反映させていく。
そして描き上がった風景画をみて彼は満足し、嬉しそうな表情を浮かべる。
しかしその満足は若かりし頃に故郷を想い絵を描いた時のものとは全く別の感情だった。





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