「夢」
その男は悪事を重ねて大金を儲けていた。
しかし、最近それが発覚しそうになり、外国に逃亡しようと思い立ったのだ。
ここは飛行機の中。
「よし、もうすぐ外国だ。母国を捨てるのは心苦しいが仕方がない。
新天地でまた金を儲けるとしよう」
しかしそうもいかなかった。
何かのトラブルか、機体が大きく揺れた。
アナウンスによると、助かる確率は、ごくわずからしい。
「わたしももうお終いか。今までの天罰でも下ったのだろうか」
飛行機は山脈にぶつかり……。
そこで男は目が覚めた。
「何だ、夢だったのか。それにしてもリアルな夢だった。しかし、わたしが悪人だとはな」
その男はある大企業の社長だった。
彼はこの上なく善良で、正義感溢れる人柄だった。
「普段の反動で、このような夢を見るのだろうか」
男は服を着替え朝食をとってから、出勤のため家を出た。
その時、後ろから声がした。
「おっと、動かないでもらおう」
「だれだ」
「殺し屋さ」
大企業の社長ともなると、殺したいとひそかに思っている者も少なくない。
「あばよ」
わたしももうだめか。弾丸が、男の心臓をつらぬく……。
そこで目が覚めた。
「なんとまたリアルな夢だ。しかし社長とは」
その男は犯罪者。
殺人を犯してしまい、もう数時間とこの世にいれないのだった。
「いつの間に寝ていたのだろう」
そして、処刑の時。
「何か言い残す事はないか」
「ありません」
そして男は死んだ。
そこで、目が覚めた。
ここは飛行機の椅子でも、豪華なベッドでも、牢屋の中でもなかった。
機械的なベッドの上に、男は寝ていた。
いままでの夢はこのベッドが見せていたのだった。
新しく開発された、リアルな夢を見せる機械。
しかし男は起き上がろうとしなかった。
これが夢でないという証拠はどこにもないではないか。